神津 善之介 公式サイト

2012年11月


先月書いたコラムが少々暗い内容だったからか、こんな私を心配して下さる方がけっこ
ういらっしゃったりして、なんとも有り難いやら申し訳ないやらと戸惑ってしまったの
だが、結果、いろいろな方々から沢山の元気を頂いた。

誠にありがとうございました。

悩みは傷のようなもので、そんなに重症でなければ、時間とともに勝手に治癒されるこ
とが多い。また簡単に解決できなくて慢性的になってしまう場合でも、身体がそれに慣
れてしまい、たまにフとした拍子で思い出したように痛みだすこともあるが、だいたい
はいつの間にか気にならなくなる。

今の私は絵が出来てきたからなのか随分と元気だ。

私はちょいと女々しいだけで、根が心底悲観的な人間という訳ではないので、どうか心
配なさらないで頂きたい。

 

そんなこんなで、今日は自分の絵の話をする。

私はここ10年ほど、二つの絵画技法を使って絵を描いてきている。

 

油彩を使って実際にある風景を写し取るという手法。

10年前の自分の絵と比べ、段々とそれは写実的なものから、印象的というのか、「全
ての人にそう見えるであろう景色」から「私はこう感じた」というものに変化してきて
はいるが、根本的には目の前の景色を純粋に写し取るもの。

主に風景を描く時はこの手法で描いている。

 

もう一つは転写技法を使い、目の前にない映像を自分の頭の中で構成し、その映像をキ
ャンバスの上で作っていく手法。

これは抽象絵画にも興味がある私が、どうにか抽象絵画の精神を具象絵画の中に重ね合
わせられないか?という思いから始めた試みである。

抽象的な加工をした下地の上に白黒の写真を自分の感覚で配置し、その中の一つだけ、
ポイントとなる対象物に色を着けるという描き方である。

この手法は静物を描く時に使っている。

 

私はそれまで、風景だろうが、静物だろうが、肖像だろうが、出来る限り写実的な絵を
描きたいと思い挑戦してきたのだが、自分で絵を描いていても、人の絵を見ていても、
描けば描くほど、筆を入れれば入れるほど、絵の実在感というか、存在感みたいなもの
が薄れ、その絵の写実的でないところに目がいってしまい、まるで自分が間違い探しを
しているような感じになってしまうのだ。

だったらとことん絵の引き算をして余計な情報を省き、自分の筆を入れると言うアナロ
グ的で有機的な作業をやめ、デジタル的で無機的な手法で画面の殆どを塗りつぶし、限
りなく少ない対象物だけに筆を使って描いてみたら、そこがコントラストとなり、より
写実的に際立って見えるのではないか?という考えのもと、この転写技法は始まった。

だから、このシリーズには「Less is More」という名がついていて、その名には減らす
事、捨てる事はより多くの事を得るという私の願いが籠っている。

 

この細かく写実的に描こうとすると、ついつい間違い探しに気を取られてしまう癖は、
もう一方の油彩で目の前の風景を描くと言うスタイルの方にも影響が出てきて、それに
よって私は細かく描く風景から、その細かさや的確な形や色彩を崩し、風景が持つ空気
感というかその場に居た私の心持ちをより尊重するような描き方になった。

 

また、この転写を使った技法にはいくつか問題があり、技術的な理由で風景を描くこと
ができないのだ。

いろいろと試行錯誤してみたが、この技法を使って風景を描いてもなかなか納得がいか
なかった。

果物や花を使った静物の場合、その一つ一つのフォルム(形)や配置や構図を使い、画
面を面白く作れるのだが、それらがすでに何万と合わさった風景となると、目の前の存
在の中に私の考えが入り込む余地がなく、どうにも私の力では歯が立たなかった。

にもかかわらず、どうしてもこの技法で風景を描いてみたいという衝動が私には尽きる
ことなく湧いてきた。

 

なんだかんだと、その葛藤が5、6年は続いたと思う。

そして今年に入り、やっとその風景をモチーフとした転写技法の絵が段々と形になって
きた。

年の頭に初めて描き上げた絵からもまたいろいろと変化し、やっと最近になって自分の
思いに近い絵が出来上がった。

本当は昨年くらいには発表したかったのだが、今年の終わりまでかかってしまった。

 

今回の個展では、その転写技法で描く風景と合わせるように、油彩でも同じテーマの絵
を描き、それぞれ違う技法の二つの絵を一つのテーマのもとで並べて展示しようと考え
ている。

その共通のテーマが今回の個展タイトルにもなっている「秘密の花園」である。

一つはモデルが実在している花園。

もう一つは全くの0から頭の中で作り出した架空の花園。

いわば、実存風景と心象風景を隣り合わせにしてみようと言う試みなのだ。

今回の個展はその並列展示だけに焦点を当てる実験的な展示にしたいので、いつものよ
うな大きな個展会場ではなく、スペイン人とのグループ展に使う青山の画廊を選んだ。

 

もっと大きな意味で「納得できる自分の絵」はまだ到底描けていないのだが、この転写
シリーズにおいては、やっと自分のやりたかった絵の光が見えてきた、という感じだ。

こんな絵を描きたいと思ってから、実際に描きたい絵に近づくまでに何年もかかってし
まった。

 

年内にはどうにか個展用の絵が全て完成しそうなので、今年は何年かぶりに絵に追われ
ず年を越すことができるだろう。

来年1月頭の個展、私の絵は皆様にはどうご覧頂けるだろうか?

それを考えると、締め切りに追われるハラハラとした感じはないが、別のもっと大きな
ドキドキを感じながら、年越しすることになりそうだ。

 

 神津善之介

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