神津 善之介 公式サイト

2008年8月


8月だ。
皆がバケーションに出かけ、このアパートが空っぽになっている中、 私は無心にただただ一生懸命、絵を描いている。

そう、私はものすごく忙しい。
6月のコラムから今まで更新ができなかったくらいずっと忙しいのだ。
そしてとても集中している。

イーゼルに絵を置いて描くだけではない。
まるで大工のように板を削ったり、組み立てたり、大理石や鉱石の削り粉をジェッソ に混ぜて下地を作ったり、ぐちゃぐちゃのアトリエの中を動き回っている。

今の私にはどんな雑音も耳に入らない。
だれにも私の邪魔はさせないのだ。

最近は寝る時間も惜しんで絵を描いている。
今も2、3時間の短い睡眠の後、寝起きにも関わらず、右手には絵筆、左手にはパレッ トを持ち、うん? 何故か右手に生ゴミを持っている。
・・・嫁にゴミ出しをさせられているのだ。
寝不足で思考がイマイチできていないうちに、嫁は私をうまく使う。

「俺は本当に忙しいんだぁぁぁあ」と誰もいないことを見計らい道ばたで叫ぶ。
気分が少しすっきりして家に戻るとなんだか知らない物体(多分ムササビの一種であ ろう)が襲いかかってきた。

なんだ?!いきなりアキレス腱をアンブッシュされた。
(ゲリラ用語で草むらの中からの待ち伏せ攻撃)

 

おいおい!なんで野生のムササビが家の中にいるんだ? 確かに今の世の中、何が起きても不思議ではない。
最近は東京の都心でもタヌキが出没するらしいからあり得る話だ。

何よりも、どうやってこのムササビを捕獲するかだ。
アトリエの中には絵があるから、アトリエに入られたら大変だ。
この玄関付近で確保しなければいけない。
まず、木の棒とビニール袋を持ちムササビを探す。
嫁の部屋のソファーの下からガサゴトと音がする。
そーっと近づいて、腹這いになり、ソファーの下を覗いてみる。
すると嫁が後ろから「何やってるの?」と呑気に聞いてくるので、私は真剣な面持ち で「いや!どうやらこの家にはムササビが住みついているみたいだぞ。
お前は大丈夫 か?」と嫁を脅かさないように静かに言った。
すると「あ、善が寝ている間にMさんに頼まれて、1週間だけ猫を預かったよ」と答える。
と同時にソファの下から出てきたモノに顎を噛まれた。
いや、舐められた。

どう言う事? 良く見ると猫だった。

しかしなんで私に相談もないのだ? こんな猫なんか家に居たら絵の制作に負担になるではないか!どうするんだ? 嫁と猫に文句を言ってやろう。
「あのさぁ!」 すると嫁が抱いた猫を私に渡し、「この猫、まだ生まれて2ヶ月くらいだって」とい う。

見ると、か、可愛い。
なんて可愛いのだ。
しかもえらく人懐っこい。
これでは「返して来い」とは言えない。
「あー、えーと、じゃぁ、あれだ。
お前の部屋だけで面倒を見ろよ。
アトリエには絶対に入れるなよ!」 とりあえず文句は言わなかった。

私はなんて寛大な家主なんだ。
まだ小さい子猫に情をかけてやったのだ。
さて、やぁっと絵が描ける。
忙しいのに随分と無駄な時間をくった。
そしてアトリエに戻って絵を始める。
・・・30分後、ちょっと猫を見に行ってみる。
やはり可愛い。
幼い頃飼っていたポロンという猫に似ている。

「おぉ可愛いのぉお前は」身体を寄せてくるではないか!
でも嫁が台所から戻ってくると私はそそくさとアトリエに戻る。
まるで近所の娘と浮気をしている亭主のようだ。

そして30分後、また子猫の所に行ってみる。
実に可愛い。
30分が20分、15分と縮まって、とうとう嫁に「絵は忙しくないんですかぁ?」 と嫌味を言われる。

確かに今は忙しいので、猫にかまってはいられない。
そこで「まぁ、こいつはまだ子猫だし、随分おとなしいからアトリエに入れてもよろ しいぞよ」と、私はなんとこの子猫に我が家の聖地に入る事を許した。

私が絵を描いていると足下で丸まってる。
たまに気が向くとひざの上に乗ってくる。
本当におとなしくて気が優しい子だ。
あんまり可愛いから猫にまゆ毛を描いてみる。
変な顔になる。
それもまた可愛い。
今の私の目には絵と猫しか映らない。
嫁の冷たい視線は私には見えない。

絵を描き、子猫と遊ぶ。
午後の陽射しと涼しい風がアトリエに入る。
なんて穏やかで優しい時間なんだ。
あぁ失楽園。
私が猫とのアバンチュールに惚けていると、嫁が昼御飯を絵の道具が散らかったテー ブルに置いて行く。

それでもかまわず、猫と遊ぶ私に「お昼が冷めるから、早く食べなさい!それとテー ブルはいつ片付けるの?」と嫁が怒る。
私は「うにチャン、あの人、恐いねぇー」と猫を撫でる。

「猫に癒しを求めない!だいたいその子の名前は「うに」じゃなくて「オルチャータ」 ですっ!」

「恐いねぇー、うにちゃん」「にゃぁー」

制作の時間が足りない中、私と猫の蜜月はもう少しだけ続く。


 

 

神津善之介

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