3月あたまのこと。
青い海と空、白い雲と砂浜、キラキラと輝く太陽とそれを弾き返す波しぶき。
心地良いそよ風と、甘いサンオイルの匂い。
遠くに聞こえるカモメの声と、横で楽しそうにケラケラと笑う息子の声。
私は幸せを感じている。
私の視線はなだらかな砂丘をなぞり海へと消え、ふと冷たい飲み物の氷が溶けた音で横に目をやる。
今度は急勾配でつり上がった眉と目から氷入りの飲み物以上に冷たい視線を送る嫁と目が合う。
ん?!!!なんで?
話を少し前に戻そう。
1月に緊張と不安のなかで迎えた個展を終え、やっと精神的な緊張状態から解放されたと思ったのだが、今年は個展の予定がいつもより多く入っていて、5月には銀座の松屋で個展を開くことになっている。
1月の個展では転写技法と油彩の風景とで同じテーマを描き、それを並列展示すると言う試みに挑戦したので、そのテーマだけに集中するため、あえて会場は大きくないところを選んだ。
次の5月はその倍以上の会場だし、成功したとは言え1月の個展と同じテーマを繰り返すようなことはしたくない。
また1月の個展に出した絵を描いていた時、油彩の風景の方でこの先に繋がるような小さな発見をした。
だからそれをもう少し掘り進めてみたいと思ったので、この5月は1月と少し違うテーマの個展をと考えている。
そんな訳で、新たな気持ちで描き始めるための気分転換の意味と、1月の個展の自分へのご褒美と言う事で、4泊5日のカナリアス諸島フエルテベントゥーラ島への家族旅行に出た。
家族3人で4泊5日。
宿泊は高級ホテルではないが、飛行機代+空港からの送迎、朝昼晩の食事から全ての飲み物まで付いて、基本的に旅行中これ以上の支払いは必要ない状態。それで3人分の総額:約1000ユーロ(今のレートで12万円くらい)。
かなり安くないか?安いよね!じゃぁ、いつ行く?今でしょ!
てな感じで一番安い時期を狙って行ってきた。
3ヵ月間嫁と息子を置き去りにして一人スペインで制作に没頭していたお詫びの意味もある。マドリードに戻ったらまた制作活動でアトリエに籠る訳だし。
さぁ、この5日間は家族3人を満喫しようじゃないか!
この旅では一切仕事をしないで、お母さんを休ましてあげよう!ウノは私が面倒見るから、お母さんは今回特別にスパなんかに行っても良いぜ!!!
そんな感じで出発したカナリアス。
カナリアス諸島と言うと大滝栄一の歌「カナリアス諸島にて」が浮かぶかも知れないが、実際に行ってみるとそんなオシャレな雰囲気はないし、歌詞と違って風はけっこう激しい。
オシャレな島マヨルカ島に6年暮らした私に言わせて頂けるならば、私たちが滞在した街は外人保養地区でホテルしかなく、大自然でもなく、そこそこの街でもない。中途半端にダサく、ドイツ人とイギリス人の植民地のようで、スペイン領という感じがしない。
ただ、そんなマイナス面を一気にチャラにするほど海も砂浜も美しいし、日本の初夏くらいの気候でとても過ごしやすい。朝2,3度しかない今のマドリードとは大違いだ。
何もないから、何もしないで、ただ海を見て、プールで泳ぎ、本当にリラックスできる。
しかもなにげに朝昼晩と毎日違った内容のビュッフェが魅力的なのだ。
嫁は息子と私の飯の献立に悩む必要がないし、偏った食事の好みの私は嫁を気にせず好きなだけ好きなものを食べられる。
太陽のせいか、なんか久しぶりの開放感だ。
いやー、来て良かったとしみじみ思う。
日光浴しながら一人ボケーっとして、ビールを飲んで、またボケーっとして、海見て、好きな時に好きなもの食べ て、またボケーっとして、そんでお気に入りの音楽なんか聞いちゃったりして、でまたボケーっとして、来たら来たで少し欲出してスケッチなんかもしたりし て、そしたら疲れて昼寝するから夜は寝付けずこのコラムを書いたりして、朝は起きれなくて...
あっ!!!!!
なんで嫁が怒っているのか分かった!
賢明な読者はもうお分かりだろう。
そう。またもや、二人にかまわず一人っきりで満喫してた。
うーん。今回はかなりマズい。
残すは明日一日だけ。全身全霊で家族サービスしよう!
と言う事で、明日のためにさっさと寝る。
コラムはここまで。
神津善之介