秋の初めにコラムを書いてから随分と間が開いてしまい申し訳ありませんでした。

こんな年も押し迫った頃になって今更とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、年を越す前にどうしてもお伝えしたかったので。

この度の個展、グループ展にお運び頂きました全ての方々に心より御礼申し上げます。
今年も皆様に見て頂き、また新しい出会いが沢山ありましたことをとても嬉しく思っています。

今年ももうすぐ終わりです。

気がつけば、自分がスペインに暮らした年月も19年目を迎えました。
19歳で向こうに渡った訳ですから、人生の半分をスペインで過ごした事になります。
もっと厳密に言えば、幼い子供の時分なんて物心も付いていませんから、実質はスペインでの生活の方が長いのではないか?とさえ思えてきます。

親元を離れ、一人暮らしを始めたのが地中海に浮かぶスペイン領マヨルカ島でした。
スペイン語もままならない自分が、日本人もほとんど住んでいないマヨルカ島で、絵と師匠の言葉だけを信じ、絵を描き始めたのが18年以上前です。

マヨルカの生活が嫌になったときはいつも、バカみたいに青い空と、高く高く伸びる椰子の木、そして、冬ならば町中が美しく飾られるクリスマスのイルミネーションに随分と助けられました。
あの頃は人に助けられるというよりは、目の前の風景に救ってもらっていたように思います。
またあの頃に「孤独な心を持つ方が風景は美しく見える」という実に個人的な定理を学んだように思います。

あれから18年。
いつまでたっても絵とは何かなんて分かりませんし、いつだって絵を描く前は戸惑います。
また自信を持って描き終えたつもりでも、しばらく経って見れば、まだまだ研究の余地が見つかります。

もしかしたら、描きはじめの青臭い頃の方が自信に満ちあふれていたかも知れませんし、どうせ分からないまでも、絵とは何かを分かったような気になれていたかも知れません。

勿論、自分の事を信じてはいますが、まだ何一つ先は見えません。

良い絵を描きたい。
これは非常に抽象的で難しい永遠のテーマです。
綺麗な絵、強い絵、価値のある絵、そう言うものは、もしかしたらもう少し近づきやすいゴールかも知れませんが、良い絵という課題はとても難題です。
不可能かも知れないという思いも脳裏に少しよぎります。
でも死ぬまでには一つくらい「良い絵」を描いてみたいです。

その絵を描けるまで、まだまだ歩いていくつもりです。

そして、今の僕には一つだけ確かな事があります。
それは日本にもスペインにも、僕の絵を好きだと言って下さる方々が居るという事です。
それはもっと強くならなければいけない自分にとって何よりもの支えになります。
今はその言葉を信じ、またその言葉に責任を感じ、生きていくつもりです。

また僕には愛する家族が居ます。もちろん幸せです。
でも、心の片隅にある小さな孤独は今もなにかを探し求めています。

19歳から成長できない孤独。
もしくはそれを幼児性と呼ぶのかも知れません。

でもまだそいつが居る限り、僕は絵筆を握ります。

今年も本当にありがとうございました。

来年が皆様にとって良い年になりますように、心よりお祈り致しております。

 

神津善之介