この度は松屋銀座で開催いたしました私の絵画展「色の記憶」に、誠に沢山のご来場を賜りましたことに、心より御礼申し上げます。
有難うございました。
この度の個展は私の母のこともあり、皆様から母へのお悔やみのお言葉も多く頂戴し、母の影響や偉大さというものを改めて感じた個展でした。
若さという青臭い感情で、母や父の影響から早く抜け出したいと、19歳でスペインへ渡った私ですが、今更ながら父や母の有り難さ、素晴らしさを噛み締めております。
多分、自分も随分と歳をとり、子供も持ち、親の気持ちが少し分かるようになったから、両親のこともすんなりと受け入れられるようになったのだと思います。
そして、ものづくりの先輩として、素直に尊敬できるようにもなりました。
好きなことを集中してやり続け、長い年月、それで食べていく事の厳しさも、この歳になると充分に理解できます。
いつか両親を追い越せるように!いや、追い越さずとも、彼らとはまた違う素晴らしい景色を見れるよう!もっと上を目指し精進していこうと、珍しく真面目に思いました。
皆様とまたお目にかかれる日を楽しみにして、新しい絵、もっと良い絵を描きたいと思います。
最後に母の話を少しだけさせて頂きますと、
私の母は裏表がなく、家にいてもテレビの中の「中村メイコ」のままなので、皆さんが知っているあの人がそのまま私の母でした。
面白いことが大好きで、人が笑っているのが彼女の幸せで、でも雨なんかが続くとたまぁにメランコリックな時もある、そんな「中村メイコ」という生き物が私の母でした。
ウーパールーパーとか、タスマニアンデビルとか、そういった感じで、中村メイコでした。
母が残したものをみると沢山の詩が残っていて、母は女優ではありましたが、ある意味詩人だったのかもしれません。
そして息子だった私にとっては、まるで香水みたいな人で、あまりにも自分の近くに母が居ると、彼女の個性や性格が強烈で、「近いわ!臭い臭い!」とちょっと目が回るくらいでした。
今はその匂いを嗅ぐ事ができなくなり、母のその残り香がとても良い塩梅に今の私の周りを包んでくれています。
それで充分に良い匂いなので、私は寂しくありません。
一つだけ寂しいことがあるとすれば、私が個展に出す絵を、個展前に母に見せる時、母はその中から必ず1つの絵にタイトルをつけました。
「誰かを待っている椅子」とか、「遠い朝」とか、「小さな孤独」とか。
突然母は絵から受ける印象を題名として呟くのです。私も実際にそれをタイトルにしたことがなん度もあります。
そういう母を見て、彼女は詩人なんだなぁと私は思うのです。
そして、私の描く絵も、ジャンルというものがあるとすれば、印象派でも具象でも写実でもなく、きっと「詩」なんだろうな、とぼんやりと思うのです。
この度の個展、見てくださった多くの皆様に、改めて心より厚く御礼申し上げます。
有難うございました。
神津善之介 拝
*ギャラリー>新作 更新しました 2024/02/19