母が旅立ってから1ヶ月が過ぎます。
沢山の方々から大変温かなお言葉を頂戴いたしました。
心より御礼申し上げます。
というわけで、私の近況報告です。
晩年、夫婦二人っきりでの生活だった92歳の父が、これから一人で大丈夫だろうかと心配した私は、母の葬儀以降、そのまま日本に残って絵を描きながら、父と同居しています。
3月1日(金)から松屋銀座で私の個展が開催されるので、それが終わるまでは日本に居ようと思っております。
私は30年以上両親から離れ、ずっとスペインを拠点に生活していたので、こんなに長い時間父と過ごすことは初めてです。
しかも二人きりで・・・笑
ご飯は姉達が差し入れしてくれることが多く、不便はしません。
ただ、私たち父息子の会話はご飯の時に少しするくらいで、大して花は咲きません。
父は母との間では随分と饒舌だったらしいのですが、久しぶりの男同士なことや、最近かなり父の耳が遠くなったこともあり、寡黙な男同士の共同生活です。
そんな時の打開策が、夜の散歩と映画鑑賞です。
まず、父の足腰のために始めた夜の散歩ですが、日中は私が陽の光の中で絵を描いているため、明るいうちに散歩する時間がなく、夜になってから30分ほど夜の街を眺め、黙々と歩きます。
その中で父がポツリポツリと話すので、それに答える形で会話するという感じです。
次に映画鑑賞ですが、会話が盛り上がらない二人にはとても都合の良い暇つぶしになります。
テレビ番組はお互いの好みが違うのですが、映画では二人ともアクション映画が好きなので、それを観ながらまた少し会話ができます。
ここ数年でアクション映画も随分と様変わりして、主役の俳優も父が昔見たのとは違う役者だし、昔の映画よりも内容が随分と複雑で難しくなっています。
それらを説明することで、父とどうにか会話が成立します。
また父の方は父の方で、私に気を遣って、「これは面白いなぁ!」と大袈裟にリアクションしてくれます。
そんな訳で、このところアクション映画を観続けている二人なので、皆様に何かオススメの映画があれば、ぜひご教示ください。
ちなみに私はアクションではないのですが、ティム バートン監督の「ビッグ フィッシュ」という作品が大好きです。
あらすじは、陽気で楽しい、でも少し嘘つきな父親の話にうんざりしていた息子が、病に倒れた久しぶりの父に会い、それによって本当の父を探す旅の中で、若い頃の父の姿を知っていくというお話です。
この話は私にとって、他人事ではなく、まさに私の母こそが「その映画の中の嘘つき親父」のような存在でした。
母が若い頃の冒険の話。例えばマニラのジャングルで垂れ下がる蔦を切っていたら蛇を切ってしまった話や、岩だと思い川から飛び移ったものがワニだったという話、海でサメが近づいてきた時に海藻のふりをしてどうにか逃げきった話などなど・・・。
そんな沢山の母の昔話を幼い私はよく聞かされていました。
だから、私にとって母は、「面白味のないの現実の話を正確に話すくらいだったら、楽しいファンタジーのある作り話をしましょうよ!」みたいな人でした。
私は、そんな母に嫌悪感を抱いた思春期を過ごし、その後一人で過ごしたスペインで母のホラ話をとても愛おしく思い出し、今ではもうそれを聞けなくなってしまったことがものすごく寂しいです。
私の息子が幼い時には、彼が眠る前に「バアバが若い時にね!」と私も同じ話を聞かせていました。
息子もバアバの冒険話が大好きです。
だから、私にとってこの「ビッグフィッシュ」という映画は、まさに自分を見ているような映画なのです。
もし、まだ観てない方がいらしたら、中村メイコは「ビッグ フィッシュのエドワード」だと思って、ぜひご覧になって下さい。
もう少しして、父がアクション映画に飽きる頃、父にも「ビッグ フィッシュ」を観せてみようかな?!と思っている今日この頃の私です。
神津善之介 拝
*ギャラリー>新作 更新しました 2022/12/26