seven calla lilies forhp
タイトル:Seven colla lilies カラーの旋律
サイズ:72 x 87 cm
し前から、マドリードの八百屋に枇杷が出始めた。
前から何度か書いているが、私は果物の中で枇杷が一番好きだ。
あの控えめながら上品な甘さが好きだ。

私は枇杷を食べると自分の幼いころにタイムスリップしたような感覚を得る。
幼いころの記憶や映像が蘇る訳ではなく、
ただ幼い自分が枇杷を食べていた時の匂いや味覚や気分だけが蘇るのだ。
まるでこの21世紀の現在、自分だけが子供に戻って食べているような感じ。

自分が親に守られている事への感謝の意味すら理解していないような幼い私。
何の不安もなく能天気に生きていた子供の私。
ボンヤリとした記憶のカーテンの向こうにある、
今では戻れない幸せが突然舌の上に蘇るのだ。

とくに枇杷に深い思い出などはないので、なぜそうなるのかは全く分からない。
でも何故かこの枇杷の曖昧で微妙な味が私にそういう気持ちを呼び覚ますのだ。
だから私は枇杷の味だけが好きな訳ではなく、
枇杷がもたらすその効能も含めて好きなのだ。

また、ちょうど今のような季節、夏の気配がし始めると、
昔私が暮らしたマヨルカ島で100年近くも続くカフェに
杏のアイスクリームが出始める。これもまた最高の味なのだ。
今の私が食べると、マヨルカに暮らしていた頃のことを思い出すから、
私にとってはその懐かしさもアイスのスパイスになっているのだろう。
だから皆が食べて、同じように感動するかは分からないが、
私にとってこの杏のアイスクリームは、
この世のアイスクリームの中で永遠にベストだ。

どうも私は絵描きのくせに、
視覚よりも嗅覚や味覚でいろいろなことを感じたり、思い出したりする癖がある。

そして今、横で息子は枇杷にムシャぶり付きながら
「ウノは果物でこの枇杷が一番好き!」と言っている。
やっぱり親子だなぁーと思っていたら、
その翌日、黄桃にかじり付いた息子が「ウノはこれが一番好き!」と叫ぶ。
ガクッ!となるが、えてして子供とはそう言うものだ。

息子にとって、今の幼い彼の生活には多少辛いこともあるかも知れない。
けれど、自分が守られている事への感謝の意味すら知らず、
大きな不安もなく、まだ自分では気付けない曖昧でボンヤリとした幸せの中で、
息子はただ能天気に桃をかじっている。
むかし私もそうだった。それで良いのだ。それが子供なのだ。

大人になった息子は桃を食って何を思うだろう?

あ、そうだ!今月末に個展を開く岡山は桃の名産地ではいか!
ぜひ息子に旨い日本の白桃を食わせよう。

神津善之介 拝

ギャラリー>新作 更新しました 2015/6/5