トレド駅の朝 8-20
タイトル:トレド駅の朝 am 8:20
サイズ:50×50cm
月の個展に向けて!
皆様と笑顔でお会いするため、私は死にものぐるいで絵を描いてる。
全ての絵は最終的な仕上げ段階に入り、まさにここが正念場だ。
ここからの時間は言ってみれば地獄のようなものだが、
同時に身体から沸き上がるアドレナリンのせいか、
生きているという実感を感じ、恍惚とした感覚にも襲われるので、
まるで天国のようだとも言い代えられる。
私には無駄な時間など一切なく、
1分1秒も無駄には出来ず、一筆一筆に力が入る。
さぁこのイタリア、ダヴィンチ社製の面相筆が画面に光をっ!!

ぴんぽぉーーん
(私)「うぐっ!..おーいピンポン鳴ったぞー!
誰か居ないのぉー?ねぇーって。ピンポーンって...っチ!」
シーンとした部屋。誰の返事もない。
もう一度舌打ちしながら、仕様がなく玄関を開けると、
(男)「ガスのメーターチェックでぇーす!」
スペインでは都市ガス屋が各家を回り、
直接メーターチェックをしてからガス代を請求する。
(私)「あ、はいはい。今月はこのメーター数です。」
(男)「あいよ。ありがとさん。ありゃ、まだパジャマだったかい?」
(私)「はいはい。アディオース。・・・ふぅーっ。」

(これは私の仕事着だ!あいつ、階段から足滑らせてお尻を強く打て!)
と念じながら、部屋に戻り、もう一度、集中力を高める作業に入る。
だが、一度中断された集中力はなかなかもとの高さには戻ってくれない。
でも、かのベラスケスだって絵の制作中に王に呼び出されたはずだ。
小一時間後、やっとまた絵に気持ちが乗ってきた。今度こそ持続したい。
先ほどの誤描した光の部分に、今こそ細筆をーっ!

「お父さぁーん、このレゴ外れちゃったんだけど元に戻せるぅー?」
息子だ!いつの間に幼稚園から戻って来たんだ?全く気が付かなかった。
まぁそれほど私は絵に集中していたと言う事だ。
(私)「今忙しいぃ!仕事中!!!後で!」
(息子)「えぇえー待てないっ!ちょっとだから来て!ねぇ!ぎでーー!」
ばあさんに似たらしく声の通りが良く、うるさくて逆に集中できない。
ちょっとだけ、ほんの1,2分で直してやろうと息子の所へ行く。
(私)「どれ? あーこれね。えーとあれ?
    どうだったっけ?説明書ある?..あれれぇー?!」

気付くと説明書と30分も格闘し、やっとアトリエに戻る。。
おいおい頼むぜ!息子よ。お前の父は大事な仕事の真最中なのだぞ!
レゴなんかしてないで、仕事に励むこの父の背中をよく見てみろ!
と苛つきながら、絵に精神を集中する。
お、今度はわりと早く乗ってきた!これならば!!!
さっきの光の部分にイエローオーカーとレモンイエローを混ぜた白を!

「うぁわぁああー!指切ったぁー!」
っ嫁だ。嫁だ。そう嫁なのだ。あぁ嫁なのだ。
料理中に指を切ったのだ。どれくらい深く切った?
今、嫁の所に行ってやるべきか?
いや、猛烈40代の働き盛り、今はどう考えたって、仕事に集中だろ!
(嫁)「うぁわぁああー!血が止マラナァーイ!」
うぅーん...、これは行かないと、絶対に後で面倒だ。
(私)「大丈夫?」
(嫁)「早くバンドエイド!!はやくっ!」(私)「はいはい」
(嫁)「はやく!」(私)「はい」(嫁)「はやく!」(私)「はい」
(私)「これで良いかな?」(嫁)「防水のだって!」(私)「あ、はい」
(嫁)「血が止まんないんだけど!なにかネットで止血方法読んで!」
(私)「あ、あのさ、今ちょっとだけ忙しいんだけど、
    調べるから自分で読んでくれな...」
(嫁)「あぁー痛い。目がかすむ。
    キレてない方の手で押さえてないといけないし!」
(私)「あ、はいはい。じゃぁ、えーとぉー、
    切った方の手を上に上げて、わずかに...」

ってみんなバカー!!!!!!!!!!!!!そしてバガーーーーー!
一家の大黒柱が大仕事の大詰めで絶賛大集中中なんだぞぉー!
それが分からないのかぁ!!!!

・・・と言える人を凄いなぁと心から羨ましく思いつつ、
私は一つ大きな息を吐いて、アトリエに戻る。
怒っちゃダメだ。怒ったら筆に濁りが出るぞ。無だ!無の境地だ。
ブルースリーも言っていた。考えるな!感じろ!と、
いやイヤ、それは今、関係ないわ...

とりあえず無になるため、鼻歌など歌ってみる。
「芸のためなぁーら、女房も泣かすぅぅーっう」
あ、目頭が熱い。鼻歌が鼻声になる。

・・・3月に皆様と笑顔でお会いできるように祈っております。

神津善之介 拝

ギャラリー>新作 更新しました 2016/2/14