portrait 2015 no.6 (Unosuke)
タイトル:portrait 2015 no.6 (Unosuke)
サイズ:30×30cm
月のマドリードは暖かかったり、まだ肌寒かったりである。
ちょっと前の話になるが...
私は一人で4月の前半にマドリードに戻ってきた。
その際、嫁と息子はパスポートの更新があり、最初の予定を変更し、
私よりも10日間ほど長く日本に残った。

私が日本を発つ日、嫁と息子が空港まで送ってくれたのだが、
出国ゲートでの別れの際、息子は短い時間とは言え、
私と別れるのが寂しくなったらしく少し泣いた。
その息子に私は
「じゃぁウノが今持っている何かをお父さんだと思ってよ」
と提案した。
すると息子はしばらくポケットの中をゴソゴソ探し、
黄色い変な形の消しゴムのようなものを取り出し、
「じゃぁこれにする」と言った。
私も「オーケー!いいね。じゃぁ、それがしばらくお父さんの分身だ!
何かお父さんに言いたい事がある時はそいつに話しかけてね!」
と言った。
息子は「わかった!」と半べそで返事をし、
その小さな手で消しゴムを握りしめた。
そして私は二人にしばし(たった10日間なのだが)の別れを告げた。

息子の泣き顔を見ると少し切ない気分になる。
搭乗ゲートでぼんやりしている私に駐車場に着いた嫁から電話がかかった。
「なんか少し寂しいね」とセンチメンタルにつぶやく私に対し嫁は至って明るく、
「ねぇ知ってた?さっきのウノが持ってた消しゴム、うん○の形してるって!」
「...はぁ?!なんのこと?」話の内容が全く飲み込めない私に嫁は続ける。
「だ、か、ら!さっきの消しゴム、ホラ、お父さんの分身ってヤツ。
うん○ なの! 消しゴムの形がっぷぷっ!(言い終わる前に吹き出している。)

どうやら息子が手にした黄色い消しゴムはうん○の形の消しゴムだったらしい。
そして息子はその黄色いうん○に向かって、
「お父さん、あのね、僕たちがスペインに戻ったらね...」
と話しかけているらしい。
うーーーーん、微妙な気分だ。お父さんは黄色い「うん○」か...
最後に何か息子に言いたかったがなんと言って良いか分からないまま機上した。

それから4日ほど経っても息子はずっと黄色いうん○に話しかけているらしい。
健気なのか、何なのか...。
そして6日後、とうとう悲しい知らせが届いた。
なんと、黄色いお父さんが行方不明になったそうだ。

悲しみに暮れているであろう息子を慰めようとスカイプで話しかけると、
「あ!あれね。どっか行っちゃった。でもいつかどっからか出てくるよ!
僕はじいじのとこに行くからバイバーーーイ!」(駆けていく音)

......さて、一人、静かなマドリード。
一人暮らしには少し広すぎる部屋で、私がお茶をすする音だけが部屋に響く。

ねっ! 私には読者の皆がいる! よね?...よね?,,,よね?!

神津善之介 拝

ギャラリー>新作 更新しました 2016/2/14