マドリードはとたんに夏の香りがたちこめだす。
日差しが強まり陰も濃くなり、バラが咲き始め、街に色が増える。
そんな空気を肌で感じると、私は無性に海へと行きたくなる。
サンオイルの匂いや、肌がジリジリと焼ける感覚が恋しくなる。
「そう。海が俺を呼んでいるのだ。海よぉ!俺の海よぉー!」
今から24年前、私は19で親元を離れ、
マヨルカ島という地中海に浮かぶ島で一人暮らしを始めた。
その島で6年ほど暮らし、私は師匠に絵の手ほどきを受けた。
夜は遠くの船の警笛を聞きながら眠りにつき、
絵の合間ではよく海岸の岩場で本を読んだ。
自分だけのお気に入りの入り江があり、そこの海の色は何度もスケッチした。
そう。私の10代の終わりと20代の前半は海とともにあった。
若い自分の思い出も青臭い海での思い出が多い。
初めてのヌーディストビーチでドキドキと期待して待っていたら、
セイウチのようなドイツ人のおばちゃんとゲイのおっさんに囲まれたこと。
師匠に船で海に連れて行ってもらったが、ずっと船酔いで吐いていたこと。
調子に乗って砂浜で踊っていたら足を捻挫して、
ひと夏ずっと松葉杖だったこと。
親友のクリスとビーチボールで遊んでいたら、
ボールが海に落ち、それを必死に追いかけてたら溺れそうになって、
どうにか岩場にしがみついたらそこでウニを踏んだこと。
若気の至りでじゃれ合いながら彼女と海に飛び込んだとき、
海が思った以上に深くて怖くなり、
彼女の体を蹴ってその反動で岸まで戻ったこと。
(その後、その娘からの信用を全て失った。)
うん??
なぜか全部、嫌な思い出ばかりじゃないかっ!
あっ!そうだ!
私は泳げないのだった!!!
だから海が好きと言っても、海を見るのが好きで、泳ぐのどうも駄目なのだ。
あー、深い海に入るのと機嫌の悪い時の嫁は怖い怖い。
あれは近寄らずに、人ごとのように遠くから見るに限る!
今年の夏は息子と私、泳ぎが苦手なもの同士、砂場でお城を作ろうっと!
あ、ちなみにマヨルカの深い海で蹴られた娘は、
その後、私の息子の母親になったとさ。
神津善之介 拝
*ギャラリー>新作 更新しました 2016/2/14