夜明けのベネチア
タイトル:夜明けのベネチア
サイズ:81×120cm
がつけば、とっくに夏が終わっていました。
7月は地中海の日差しで肌がボロボロになるほど子供と遊び、
8月に入ってからは福岡と青山の個展に出品する絵の制作に没頭していました。
そしたら世の中はもう10月だそうです。
ほぇー、時の流れ、はえー。

で、突然、自分が幼い時の話で恐縮ですが、
私にとっての夏休みとは、
家で一人ぼんやりと過ごすだけのものだったので、夏休みは嫌いでした。
私には姉がいますが随分と年の離れた姉で、もともと家になんて居ませんし、
両親ともに田舎のない家庭だったので、休みを使って行くところもなく、
やる事無いし、友達居ないし、毎日午後3時からテレビで流れる
「あなたの知らない世界」と言うお化けの番組だけが楽しみでした。
まぁそのおかげで一人遊びだけは得意になりましたが...
家の手伝いをしてくれる人間が傍を通ると、
「なんかして遊んでくれー!暇だぁー」と絡み、
時にはその頃が一番忙しかった親父に対して、
「ちゃんと休みのある普通の家の子になりたかった!」
と生意気なことを言って引っ叩かれたこともありました。

ですから夏休みというものには大した思い出もなく、その反動からか、
私に子供ができてから、夏はなるだけ子供と遊ぶようにしています。
とは言え、今年は合計すると2週間半も、
マヨルカ島やらカタルーニャやらの旅行に時間を費やしてしまい、
仕上げる予定の作品は溜まりまくり、期日さえも迫ってきたので、
7月終わりからはずっと隠りっきりで絵の制作をしていました。
今もまさにそのまっ只中です。

一方、息子の夏休みは6月の終わりから、
まるまる7月、8月、そして9月の第2週頭まであり、
どんだけ休むんだよ!!と飽きれてしまいますが、
スペインの学校とはそんなものらしく、
勿論、どの親もそんな長い休みを子供に付き合ってられませんし、
息子の日本人の友達らは里帰りで日本に行ってしまったので、
彼も昔の私のようにきっと退屈するだろうなぁと思っていました。
ただ、同じ幼稚園のスペイン人の友達は少し近所に残っていたらしく、
息子はその子供達と遊んでいたので、さほど退屈ではなさそうでした。

スペインの夏も日本同様にかなりの猛暑で、午前中か夕方しか外では遊べず、
昼過ぎからはうちに友達を連れてきて遊ぶ日もありました。
そしたらまぁ、奴らうるさいうるさい!
そりゃガキが3人ほどいたら、それは小規模なフェスと一緒です。
少し我慢して、こちらもBGMの音量を上げて対抗していましたが、
イライラもそろそろ限界に達し「静かにしろ!」と怒鳴ろうと思いました。

私は基本、子供と遊ぶときは徹底的に遊びますが、仕事は家でしているので、
仕事中は絵に集中するべく、大声で騒ぐ息子を叱る事もありますし、
仕事中は息子からのお願いもほとんどは聞き入れません。
それが例え他人の子供であっても同じで、平気で注意します。
だから子供らにとって私は、むかし近所に居たような気難しく口うるさい、
怖いおじさんだと思われてるでしょうし、それで良いと思っています。

なので、その時もそろそろ怒鳴ってやろうと思い、
椅子から立ち上がったとたん、急にリビングが静かに...。

あれ??と思い、アトリエから顔を出すと、息子が友達らに向かって
「近所迷惑になるといけないから静かにスゴロクで遊ぼうぜ」と言っています。
そしたらその中の一人が私のところに来て「おじさんも遊んでよ!」と言いました。
まぁ5歳なんてそんなもの。苛立つ私の顔を見ても空気なんて読めないものです。
だから怖いおじさんの私は「バカか、くそガキ!おっちゃんは仕事してんだ!」
と流暢なスペイン語で言ってやろうと口を開きかけた瞬間、
すかさず息子がその子と私の間に入って、これまた流暢に、
友達に向かっては「うちのお父さんは今おうちで仕事中だからさ。
終わったら遊んでくれるかもよ。だから今は邪魔しないであっちで遊ぼ。」と、
私には「あ、ごめんね。気にしないで仕事して! ね。」と言いました。

えぇぇーえっ! 何あいつ!!!なんか大人ーっ!
子供ってそんなに気を使えるものかね?...5歳ですよ。
我が息子っていつももっと奔放じゃなかったぁ?
もしかして私の育て方が厳しすぎたのかしら?!マズいのかしら?

と言う訳で、嫁にこの事を話したら、嫁曰く
「前にママ友が『ウノ君のお父さんは気難しそうね!』
って言ってるのを聞いて、ウノは
『なんでだろう?お父さんて普段は面白いのにねぇ』って不服そうだったから、
あいつなりにあんたが誤解されないようにしたかったんじゃない?
あいつはあんたと違ってオ・ト・ナだから!!!」だそうです。
...なんとも。

そんな息子も9月の半ばには幼稚園が始まり、
私も今は邪魔者もなく落ち着いて制作に励める日々を過ごしています。

今は12月の青山個展に出すクリスマスの風景を描いています。
雰囲気を出すためにクリスマスソングを大音量でかけて気分を上げていますが、
嫁からは季節を考えろ!んで何より音が近所迷惑だ!と苦情がきています。

5歳の息子に男として追い抜かされた夏でした。

神津善之介 拝

ギャラリー>新作 更新しました 2016/2/14