サイズ:40×40cm
マドリードの大きな路にはクリスマスイルミネーションの
飾り付けが始まりました。
たぶん12月に入ると点灯され、華やかに彩られる事でしょう。
今年は初めて倉敷で個展を開催したのですが、
その際に訪れた大原美術館で私は一枚の絵と出会いました。
それはアンリ ル シダネル作「夕暮れの小卓」と言う絵です。
大原美術館はヨーロッパの美術館と比べ、
持っているコレクションの数に対しての名画の割合が非常に高く、
沢山の素晴しい作品があります。
ピカソもルオーもエル グレコもみな素晴しかったのですが、
その中でも特に私の心を捕らえたのがシダネルの作品でした。
この人は印象派の中でも重要な役割を果たしたという人ではないので、
美術史に名前はほとんど出てきません。
知名度といえば印象派の時代の絵描きを好きな人たちの中でのみ
知られているくらいの感じです。
私はこのシダネルの絵を凄く気に入って、美術館でポスターを買い、
スペインに戻ってからは彼の画集を探し、手に入れ読み進めるうちに、
幾つかの絵に何とも言えない懐かしさを憶えました。
その画集には絵のタイトルの横に描いた場所が記載されているのですが、
それを見て私は驚きました。
それは私が7,8年前に訪れたフランスの小さな村里、
ジェルブロアの風景だったのです。
そこはモネの庭で有名なジベルニーに向かう途中、
昼休憩のため偶然立ち寄った小さな村でした。
私にとってその村は特別な空気感を持っていて、すぐに心を奪われ、
当初の予定になかった2泊を増やし、スケッチしたことを憶えています。
なのでジェルブロアは私にとってとても思い出深い村です。
なんとシダネルは晩年をそこで過ごし、
その村を再生させるために沢山の花を植え、
村自体のデザインを手掛けたそうです。
と言うことは、言うなれば「村は彼の作品」とも言えます。
私は何も知らずに彼の面影であり彼の作品に出会い、心惹かれ、
その7、8年後にこれまた偶然に今度は彼の絵と出会い、
同じ人とは気付かず、同じように心惹かれたと言う訳です。
昔、師匠から「自分が絵を描き出した頃に好きだった絵が、
ある意味で自分の絵の源流でもある。」と言われたことがあります。
確かにシダネルのに絵は、絵を描き始めた頃の私が好きだったような、
少しロマンティックすぎるくらいの純粋さがあります。
今回のシダネルとの出会いで、
本当の意味で「もう一度初心に立ち返る」ような経験ができました。
この秋は、いっそ中途半端な概念や照れを捨て、
ロマンティックな絵を描いてみようかと思っています。
秋の陽の色には人をロマンティストにさせる効用があるようです。
ジェルブロア村にまた行きたくなった11月の終わりです。
神津善之介 拝
*ギャラリー>新作 更新しました 2015/6/5